実家の蔵や、オフィスの片隅で、何十年も鎮座し続けている古い金庫。そのダイヤルは錆びつき、塗装も剥がれている。久しぶりに開けてみようと思っても、全く開く気配がない。このような場合、それは単なる操作ミスや番号忘れだけでなく、金庫そのものが「寿命」を迎えているサインかもしれません。頑丈な鉄の塊に見える金庫にも、耐用年数というものが存在します。日本セーフ・ファニチュア協同組合連合会では、金庫の耐用年数の目安を、業務用で20年、家庭用で10年と定めています。これは、主に二つの理由に基づいています。一つは、「錠前機構の経年劣化」です。ダイヤル式であれ、シリンダー式であれ、金庫の錠前は精密な機械部品の集合体です。長年の使用や、使われないままの放置によって、内部の部品は摩耗し、潤滑油は切れ、金属は錆びついていきます。こうした劣化が限界に達すると、部品が正常に噛み合わなくなり、ある日突然、開かなくなってしまうのです。古い金庫が開かない原因の多くは、この機械的な寿命に起因します。もう一つの、そしてより重要な理由が、「耐火性能の劣化」です。多くの金庫が持つ重要な機能の一つに、火災から中身を守る耐火性能があります。この性能は、金庫の壁に充填されている特殊な耐火材(気泡コンクリートなど)に含まれる「水分」によって実現されています。火災時には、この水分が熱で気化し、その気化熱で庫内の温度上昇を防ぐのです。しかし、この水分は、年月と共に少しずつ自然に気化して失われていきます。製造から20年が経過すると、耐火材の水分量は著しく減少し、万が一の火災の際に、本来定められた時間、庫内の温度を安全な範囲に保つことができなくなってしまうのです。つまり、見た目は頑丈でも、その中身は、もはや「耐火金庫」としての役割を果たせない状態になっている可能性が高いのです。開かないという物理的な問題だけでなく、耐火性能という、いざという時のための保険が切れている状態。それが、古い金庫の現実です。もし、ご自宅や会社に、製造から20年以上経過した古い金庫があるのなら、それはもはや安全な保管場所ではないかもしれません。この機会に、中身の確認とともに、新しい金庫への買い替えを検討することが、未来のリスクに備えるための賢明な判断と言えるでしょう。