最新の設備が整い、セキュリティにも配慮されているはずの新築の戸建てやマンション。しかし、玄関ドアの内側を見てみると、意外にも、ごく普通の、何の変哲もないサムターンが付いていることがあります。「なぜ、防犯サムターンが標準装備じゃないの?」と、疑問に思う方もいるかもしれません。その背景には、コスト、利便性、そして建築業界の慣習といった、いくつかの理由が絡み合っています。最大の理由は、やはり「コスト」の問題です。建物を建てるデベロッパーやハウスメーカーは、膨大な数のドアや錠前を、一括で仕入れます。その際、一部品あたり数百円、数千円の違いであっても、総戸数分となれば、そのコスト差は莫大な金額になります。防犯サムターンは、通常のサムターンに比べて、部品代も、取り付けの手間もかかります。標準仕様の価格を少しでも抑え、競争力を高めるために、防犯サムターンは「標準」ではなく、「オプション」として扱われることが多いのです。次に、「利便性とのトレードオフ」という側面もあります。防犯サムターンは、その仕組み上、どうしても通常のサムターンよりも、操作が一手間増えます。ボタンを押しながら回したり、つまみをつけ外ししたりといった動作を、毎日、何十年も続けることになります。この一手間を「面倒だ」と感じる人も少なくありません。特に、高齢者や、小さなお子さん、あるいは手の不自由な方にとっては、この操作が負担になる可能性も考慮されます。全ての人にとっての「使いやすさ(ユニバーサルデザイン)」を優先した結果、あえてシンプルな通常のサムターンを標準仕様としている、という考え方もあるのです。また、日本の住宅市場においては、玄関ドアのセキュリティというと、どうしても外側の「鍵穴(シリンダー)」の性能に注目が集まりがちで、内側のサムターンに対する防犯意識が、まだ十分に浸透していない、という実情もあります。ピッキングに強いディンプルキーさえ付けておけば大丈夫、という考えが、作り手側にも、住まい手側にも、根強く残っているのかもしれません。しかし、空き巣の手口は、年々巧妙化しています。新築だから安心、と過信せず、自分の家のサムターンがどのようなタイプなのかを、一度確認してみてください。そして、もし必要だと感じたなら、自らの手で、そのセキュリティをアップグレードしていく意識こそが、現代の住まいには求めれています。